day2. 最終便の空席待ち

ラウンジで提供されたスープを飲み、バナナを食べて、気合を入れて搭乗ゲートに向かう。そこはものすごい数の人であふれていた。係員はわずかに2人。それを囲むように100人以上の人たちが密集している。
フランクフルト空港で空席待ちをする場合は、ひたすら呼ばれるのを待つだけだ。情報は提供するものではなく、取りに行くものだという考え方に基づいている。しかし、それは国民性の違いから来ているものと思われる。鉄道のアナウンスも1つをとっても、日本はうるさすぎるほど行われるのに対し、ドイツはアナウンス自体がない。それが当たり前の国だから、それが文化なのだろう。詳しくは後日書くことにするが、ANAの国内線には実に素晴らしい空席待ちシステムがある。
さて、そういうわけで、手元に何か券があるわけでもなく、案内板もなく、当然それを確認できる画面があるわけでもないので、自分が空席待ち行列の何番目なのか、そもそも自分がコンピューターに登録されているかどうかも分からないため、係員を大勢で取り巻く状況は一向に変わらない。

やがて英語とスペイン語でアナウンスがある。君たちはコンピューターに登録されている。スターアライアンス・ゴールドの乗客から順に呼び出すので待ちなさい、とか言ってたと思う。でも、日本人の多くはこの速すぎる英語を聞き取れないため、聞き取れた人がまわりの人に教えるという伝言ゲームが始まる。
前の数便が欠航になったあとの最終便。この状況では、空席なんて出るのだろうかと不安がよぎる。予約の乗客が全て搭乗し、ついに空席待ちの乗客の呼び出し開始。なんと5番目に呼ばれる。思わず「はい!」と答えてしまった。思いっきり日本語だ。スターアライアンス・ゴールドメンバーの威力を初めて思い知らされた。まさか自分が乗れるとは。ここでこの便に乗れるのと乗れないのでは、ずいぶん旅のイメージが変わってくる。

結局空席は15くらいしかなく、残りは空港に取り残された。ゲートを通過した人たちは、まるで知り合いだったように、「本当によかった。お前もよかったな。」と、お互い片言の英語で呼びかけあっていた。思わず僕もそうしたほどだ。きっとこのあとも、カウンター付近はひどい騒ぎになったに違いない。
バスで空港内を移動し、搭乗してみると、僕の席はビジネスじゃなくて、エコノミーだった。この際、乗れただけでも十分だったが、乗務員に聞いてみると、バルセロナ空港でバウチャーを出してくれるはずとのこと。バウチャーって、なんだ?まぁ、ヨーロッパ域内の路線は、中型の飛行機でしかも短距離なので、ビジネスもエコノミーも大差ない。
窓側の席だったので外の様子がよくわかる。地面にも飛行機にも、そこらじゅうすごい積雪。機長からのスペイン語と英語のアナウンス。翼の上を除雪してからなので、出発までにかなり時間がかかると。機内がどよめく。

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翼に降り積もった雪

待てども待てども除雪車が来ない。機長によると、除雪車の順番待ちをしているけれども、この天気なのでかなり待ち行列が長いと。司馬遼太郎の「峠(上巻)」をひたすら読む。本の中でも雪の中、大変な旅が続いていた。機内食のサンドイッチが配られる。一気に場が和む。さらに、多くが陽気なスペイン人なのが幸いした。これだけ待たされても文句を言う奴なんて1人もいない。機内はなごみまくっている。

2時間くらいしてようやく除雪車が来る。はしご車みたいな車に乗った係員が、ホースのようなものを使い、水圧で雪を払った後、変な色の液をそこらじゅうに撒き散らした。一種の融雪材か。除雪が終わると、今度はプッシュバック待ちだ。飛行機は自分でバックできない。トーイング・トラクターという特殊な車を待たなくてはならない。さらに1時間くらい待たされる。
午前0時を過ぎただろうか。プッシュバックが始まると機内で拍手が起こる。その後ただちに離陸。飛べばあっという間だ。途中、コーヒーや紅茶のサービスがあった。バルセロナ・エル・プラット空港に着陸したのは午前2時ごろだったと思う。

多くの乗客が、手荷物を受け取るためにターンテーブルのまわりに並ぶ。前回イタリアに旅行したときは、乗り継ぎ時間が短すぎて荷物が出てこなかった。今日はどうか。乗り換えに9時間も時間があった。これは出てくるのではないか。

考えが甘かった。というより、ほとんどの荷物は出てこなかった。フランクフルトの荷物システム自体が麻痺していたのだろう。50人以上の乗客が途方に暮れ、やがてテーブルの回転が止まった。荷物問い合わせ窓口に大勢が並んだので、それだけで軽く2時間はかかりそうな勢いだ。
疲労は限界だったし、明日また空港に来ればいいやと思って諦めて外にでる。深夜のバルセロナ。ああ。

タクシーがなぜか1台だけいたので、運転手に行き先を書いた紙を渡す。フリーウェイを飛ばす飛ばす。降りたとおもったら曲がりくねった道をどんどんのぼっていく。一方通行だらけでしかも夜なので、まるで迷宮だ。やがてホテルに到着。端数を運転手にチップとして渡す。きっとそういう国だ。グラシアスと言われた。ああスペインに来た。

フロントのおやじは、今頃ついたのか、大変だったな、みたいなことを言って鍵を渡した。ミスター・クロイはまだ来てないが、どうしたんだ、と聞かれる。彼は悪天候で今パリにいるけど明日には到着すると思うよ、とか言っておく。そうだ、水を買わなくては。ロビーに水の自販機があったが、コインを受け付けない。おやじに言うと、ああそれ壊れてんだよ、といって自販機の扉を開け、直接2リットルのペットボトルを1本出してくれた。部屋に入り、水を飲んで、倒れるように眠る。

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