day15. 上を見る悲しさ

搭乗開始時刻の少し前にゲートに行くと、日本人だらけだった。日本に向かうのだから当然なのに、なぜか残念な気持ちになる。搭乗はファーストクラスとビジネスクラスの乗客からだ。エコノミークラス乗客からの、あいつらなんだよという視線がぐさぐさ刺さる。
飛行機に乗り込むと、1人ずつ席まで案内された。シェルタイプのシートだ。

資料:ANA New First Class Seat

倒すとベッドになる座席。長さは十分だ。もう少し幅があればシングルベッドサイズになるかもしれない。その座席を窓の高さくらいの壁が包み込んでいる。しかも今回の座席1Aは飛行機の先頭部分なので、前の席は存在しない。もちろん隣にくっついている座席もない。トイレは後ろにあるので、誰も横を通らない。これは席というより部屋だ。まわりの視線がほとんど気にならない。いいですな!1A!

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ほとんど個室のシート

席のはるか前に大きなテーブルと15インチのテレビ。その下からはダイニングテーブルも引き出せる。窓側にはカクテルテーブルがあり飲み物を置ける。側面にはパソコン用の電源もあるし、飛行機の騒音を打ち消してしまう特殊なヘッドフォンも装備されている。方向を自在に変えることができる読書灯、暗いときに足元を照らすフットライトもある。まるでホテルの部屋のような設備だ。

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ノイズキャンセラー機能付きヘッドフォン

反対の窓側の席には、どこかの会社の会長といった感じのお年を召した方が、お付きの人とともに搭乗してきた。お付きの人は会長氏(仮)のかばんを置くと、ビジネスクラスに移っていった。

フランクフルト空港を離陸後、ワインリストを見ながら、やっぱりスパークリングワインからはじめることにした。行きの飛行機でキャビアのうまさが分からなかった僕は、フォアグラも別にいいやと思って、和の前菜をとることにした。
一方、会長氏は、前菜をほんのちょっと食べ、白ワインを一杯飲んだところで早々と寝てしまった。まだ1時間も経っていないのに。

途中トイレに立つと、3Aの女性はどうやら作家らしく、着陸までずっと原稿用紙に向かっていた。僕には誰かわからなかったが、ファーストクラスで移動するとは、相当売れている作家に違いない。

メインの食事にも和食を選んだ。芋焼酎を頼む。機内で芋焼酎が飲めるなんて、搭載していない飲み物はないというほど充実している。

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ソーセージもポテトもない食事

ゆっくりと食事を取り、映画も1本見てくつろいだ。やがて機内が暗くなり、作家以外が全員就寝。僕も寝ようとすると、キャビンアテンダントさんが「ベッドメイクいたします」と。なにー。
椅子が倒され、そこにシーツが敷かれる。羽毛の枕に、シルクで包まれた羽毛ぶとん。機内の温度はすでに低めだ。これで寝ないわけがない。

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電動シート全機能

完全に足を伸ばして横になって移動するというのは、僕の体験が少ないせいか、非常に不自然なことに思えてくる。
一方、座りながら移動するというのは、自動車がそうだし、小さい頃から体験し続けているせいか、自然なことのように思えてくる。
これまで絶対にフルフラットで眠れなかった僕が、あまりの心地よさに本当に寝てしまいそうになる。しかしそれも束の間、後ろの2Aの人のいびきが凄くて寝れなくなる。ああ。僕はこういう星のもとに生まれてきたのか。

到着の時刻が近づき、朝食を取る。パン、フルーツ、ヨーグルトにジュース。食後にエスプレッソを頼んだ。
会長氏はお粥とお茶。それで十分なのだ。僕のように、せっかくだからあれもこれもという人は、このクラスにはいない。

成田空港に着陸。到着ロビーまではバスで案内される。この時、真っ先にファーストクラスの乗客だけが最初のバスに乗せられた。真っ先にターミナルに到着。入国審査も混んでないし、着陸からわずか20分後には、回転台で荷物を待つことになっていた。

しかし、最初に出てくるのは、VIPのタグがつけられた荷物。VIPは、ANAの係員がつきっきりでお世話をしている。会長氏はお付きの人とANA係員とともに早々に去っていった。

成田エクスプレスで東京へ。長い1日は続く。東京駅からよほどタクシーに乗ろうかと思ったが、振り返るとこの旅行では一度もタクシーに乗っていない。電車とバスを利用する暗黙のルールができていたのだ。
都バスに乗って家に帰る。さっきまでファーストクラスに乗っていたことなんてすぐ忘れる。

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ニュルンベルグで買ってきた木のおもちゃ

たった2ヶ国だが、15日間世界一周をした。無料航空券を使ってファーストクラスで移動するために旅行したといっても過言ではない。
競争の激化、経営合理化でファーストクラスを廃止する航空会社もある中、この時代の最高のファーストクラスで世界一周をしたと思う。そこは想像以上に贅を尽くした空間だった。

ANAでは、最上位と思われたファーストクラスでも、VIPと非VIPは明確に区別されていた。常連を優遇するのは当然のことだが、それをあからさまに見せつけられたような気がして、なぜか悲しい。上を見る悲しさを知った。

そしてこのクラスでは、サービスを断ることが普通だ。メニューに載ってないものを頼んだりする人もいる。
これには2通りの見方がある。
1つは、みんな見栄っ張りで、断ることで「乗りなれているのだぞ」と、お互いにけん制しあっているという見方。こう捉えると、くつろぎの空間のはずが、なぜかピリピリ緊張が張りつめているように感じられる。
もう1つは、飽きるほど乗っている人ばかりという見方。彼らにとって飛行機は、もう通勤電車のようになっていて、行き着くところは出来る限りの睡眠なのかもしれない。

いずれにせよ彼らは往復163万円という航空券を購入しながら、そこに用意されているサービスのほとんどをあえて受けずにいる。好奇心旺盛でかつ見栄が張れない子供には、信じられない光景だ。
僕は用意されているサービスのあれもこれも気になって仕方がない。せいいっぱい背伸びをしたところで、なんとも落ち着かない空間だ。
人には身分相応の享受すべきサービスがあるということなのだろうか。

しかしそうはいっても、ファーストクラスはエコノミークラスが思い出せないくらい美味しいもの、素晴らしいサービスが受けられるところだ。
もしなんらかの偶然でファーストクラスに乗ることになったら、まわりの雰囲気に惑わされてはいけない。他人がどうあれ、自分は自分の好きなようにすると決めて利用すれば、きっと楽しい旅になるに違いない。

(ファーストクラスで世界一周 おわり)

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コメント(3)

世界一周お疲れ様でした!
次は左回り、世界二周目、期待しております。

はじめまして、お邪魔します。

ミクシーで、Pedroさん→しゅんさんという流れで
やってまいりました。ICUつながりです。

ヨーロッパは自分は学生時代に貧乏旅行をした程度ですが
素敵ですよね。
ドイツ、チェコ、大好きです。


そして何より、ファーストクラスのすごさに仰天。
私の様な小市民には一生味わえません・・・_| ̄|○

でも、色々細かく描写されてらっしゃるので、
行った気になって楽しめました。


プロフでゲーム関係のお仕事をされていたと
拝見しましたが、
私は同じセガでも、ドリキャス前のサターンにやられ、
会社が死んでしまいました(´・ω・`)

その後へっぽこTV制作会社など経営していたので、
色々と自分にとって面白いお話が聞けそうで、
またブログを拝見させていただきたいです。

nomuraさん>
もう東回りはいやです。2周目は、西回りに細かく飛ぶ方針です。

ホールデンさん>
はじめまして。mixiでご訪問いただいたようで、逆探知しました。
なんとあなたも石原都知事定例記者会見ファンですな!僕もあれは最高の番組と思います。
休眠状態の自分の会社を、ここ石原東京都で復活させようとしていますが、どこも家賃が高いですなー。泣きそうです。またゲームと作ろうと思っていますが、知り合いから「ビジネスプランは?」と言われ、うーん、という感じ。いけませんな。脳がだめになってきているのかもしれません。

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