day14. 世紀を記憶した街

朝起きると、いかにもドイツらしい気温まで下がっていた。快適だ。一日中外を歩き回りたい気分だが、残念ながら帰国の日だ。
宿から徒歩でナチスの資料センターに行く。観光でここに来る人は少ないかもしれないが、ここは一見の価値がある。中は写真中心の資料館になっている。

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ナチス党大会場跡資料センター

ニュルンベルグは、第一回ナチス党全国大会が開催された場所だ。1935年、ナチスはユダヤ人を排除する計画を立法化してしまう。これがニュルンベルグ法だ。ヒトラーが発効させたこの法律によって、ドイツまたはドイツ占領地に住むユダヤ人の公民権が剥奪された。また、8分の1混血までをユダヤ人とした規定によって、ユダヤ人は「J」で分類、差別されることになり、ホロコースト(ユダヤ人などの大虐殺)へ続いていく。

第2次世界大戦でニュルンベルグは徹底的な破壊を受けた。人々は瓦礫の中から石を拾い集め街を再建する。つまり、僕が古くていい街だと思ったこの街のほとんどは、実は再建後100年も経っていないということになる。

そのナチス時代に、5万人を収容できる巨大建造物が、党大会会場として作られたが、ついに完成することはなかった。資料センターはこの建造物の隅に突き出すようにして存在している。
何気なく数日間滞在していたニュルンベルグ。ここはこうした人種主義、差別、戦争犯罪の記憶の中で、特別な責任を負いつつ21世紀を迎えている街だったのだ。

資料センターの出口に向かう通路は細長く、暗い。途中でちょっとだけ明るくなるがまた出口付近で暗くなる。闇、光、闇のこの構造に気づいたとき、出口を前にして思わず立ち止まってしまった。
こういうところを見ると、ぜひとも次はベルリンに行かねばならないと思う。

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トラム

宿に戻り、荷物を持ってドイツ鉄道の駅へ。やっと乗りなれてきたドイツ鉄道も今日で終わりだ。ニュルンベルグ中央駅で、コインロッカーに荷物を預け、身軽になる。空港行きの列車までまだ1時間もある。
ピザをひとかけ買い、かじりながら人々の往来を眺める。2階に上がって、カフェでカフェオレを頼み、1階の人々の往来を観察しながらゲームのメモをまとめる。駅には実にいろんな人が訪れる。30分観察し続けても飽きることはなかった。
それにしてもカフェオレかカフェラテかいつも迷う。

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空港行き列車。Würzbは、Würzburgの省略表記

時間になったのでICEに乗る。ニュルンベルグ始発だったので、簡単に座れた。沢木耕太郎を読み進めること2時間20分。フランクフルト空港駅に到着した。
長距離列車ホームから通路を進んでいくと、ルフトハンザか、それ以外か、という案内表示。この空港はルフトハンザ空港と言ってもいいくらいの支配感がある。

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トーマスクック・ドイツ南部鉄道路線図。プラハはあまりに遠かった

帰国便は待ちに待ったANAの新しいファーストクラスだ。ファーストクラスカウンターで荷物を預け、チェックインする。左の窓側を希望すると、座席は1Aだった。あれ、1Aは特別な人のために確保されている席ではなかったのか?ちょっと拍子抜けした。

手荷物検査場で、ニューヨークから連れてきた海老入りEcoSphereがひっかかる。係員がX線の絵を見て、何やら動くものがあったので、袋の中を真剣な顔でのぞきこんでいる様子だ。おかしい。係員は何か言いたげな様子だったが、ドイツ語で言っても無駄と思ったのか、そのまま通された。

ラウンジに入ってパンをかじり、バナナを食べる。エスプレッソを飲む。窓の外には世界各国の飛行機が行き交う。ゆったりとした時間が流れた。

ドイツ語には、ハとガ、ブとグ、オとボの中間のような変な音がある。地名もカタカナにしてしまうと完全に日本語になってしまうが、本当はフランクフルトは、フランフートと聞こえるし、ニュルンベルグはヌールンベーグと聞こえる。

それから1つの単語が異常に長い。何度も登場した「中央駅」は「Hauptbahnhof」(ハウプトバーンホフ)。一切空白が入らないからおかしい。区切り目を自分で見つけないことには理解が進まない。これが実に新鮮で楽しかった。
ちなみに「ドナウ川蒸気曳航会社船長」は「Donaudampfschleppschiffahrtgesellschaftskapitän」というらしい。
空白を入れない文化というのはおそろしいと思ったが、「蒸気曳航会社船長」と書いていて、日本語だって同じだと思った。

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