day13. 夢のプラハ

朝7時前に出発。ニュルンベルグ中央駅の行き先案内板には、2つの行き先が書いてあった。この列車は途中の駅で切り離され、行き先が2つに分かれるやつだ。気をつけないと。
出発まで時間があったので、中央駅の2階のカフェでパンとカフェオレ。それにしてもいちいちパンがうまい。
ホームに行き、各車両の行き先を確認し、乗り込む。この列車で国境の手前の駅Schwandorfまで行く。朝なので冷房なし列車も快適だ。快適な気温で、景色までよく見えてくる。国境が近づくにつれて田舎の風景になっていく。ああ僕は今プラハに向かっているんだと思った。

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プラハ行きの車内

Schwandorfにやや遅れ気味で到着。ああ急がねば。乗り換えの時間はわずかしかなく、もう次の列車が出発する時刻だった。地下連絡通路を走り抜け、ホームに向かって階段を駆け上がり、そこに止まっていた列車に飛び乗ると、すぐに発車した。
なんとか間に合った。胸をなでおろす。もう国境の駅Furth im Waldはすぐそこだ。

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プラハ行きチケット

やがて検札に車掌がまわってきた。どこに行くのよと聞かれたので、プラハと答えると、車掌の顔が曇った。
残念ながらこの列車はプラハには行かない、あなたは後ろ3両に乗るべきだった、ということをドイツ語で言っているようだった。
ふと、振り返ると、なんと後ろにあったはずの車両がなくなっていた。さっきの駅で切り離されてしまったのだ。そんなー。

こうして僕の夢のプラハ行きの旅は終わった。はじまってわずか2時間半のことだった。
トーマスクック時刻表で他の経路を調べるも、夜着く列車しか見当たらず、断念せざるを得ない状況だった。つまり、ニュルンブルグからプラハに向かう一連の準急列車は、事実上1日1本しかないのだった。

プラハには今回は行くな、もっと時間をかけて来い、ということか。
国境に着く列車が乗り換え駅で切り離されてしまうとは。
観察魔のこの僕が、観察を怠ってしまうとは。
世界2周目できっと来てやる。プラハ待ってろよ。

こうして誤った行き先、Weidenに到着。皮肉にもチェコまでわずか十数キロというところだった。そこからニュルンブルグに戻った。
切符の払い戻しをして、両替したチェコ通貨をユーロに戻す。うちひしがれる。

ちょっと考えて動物園に行くことに決めた。ニュルンベルグ観光案内所に行って、動物園はどうやっていくのか聞く。トラムに乗って、Tiergartenまで行けといわれる。これが動物園をあらわす単語のようだ。
トラムの切符販売機の前に立つが、買い方がわからない。乗ってから買えばいいやと思っていたら、そのまま動物園まで行ってしまった。無賃乗車だ。心が痛む。

動物園は森の中にあった。係員用の窓を何度も寂しげに覗きこむゴリラ。背が届くか届かないかのところにある葉っぱを食べようと舌をのばすサイ。暑さにやられて伏している白熊。ひたすら毛づくろいをしているサル。えさ用のヒヨコに見向きもしないフクロウ。どこも時間の流れが止まっているように見えた。見られているのはむしろ僕のほうだ。

動物園のレストランで、またニュルンベルグソーセージとフレンチフライ。うまい。歩きすぎてふらふらだったのでビールは控えた。普段、草食動物のように野菜ばかり食べているのに、日本を発ってから2週間、ニクばかり食べている。食生活が完全に狂ってきているようだ。

レストランを後にし、トラやシマウマを見る。そして偶然、ある動物の出産現場を目撃する。うずくまって苦しそうなメス、まさに頭と前足が出てくるところだ。そのまわりを落ちかない様子で駆け回るオス。飼育員より先に、そのただならぬ様子に気づいてしまった。
しばらくして飼育員も気づいたが、特に何をしようということはなく、通常通り柵の中を掃除している。そうなることを知っていたのだろう。やがて見物人は6人ほどになり、みんな静かに見守っている。

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誕生直後

5分くらいで無事生まれた。生まれたらすぐに立つというのを知っていたので、引き続きしばらく見ていることにした。
アメリカ人と思われる夫婦は、「You can do it!」とか叫んでいた。そりゃできるさ。

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クララ(仮)が立った!

本当に20分も立たないうちに馬のような動物は立った。その後10分もすると、不安定ながらも歩き出した。凄い生命力だ。感動した。
これを見せるために、誰かが僕にプラハに行かせなかったのではないかと思ったくらいだ。(誰かこの動物の名前を教えてください)

急に気温が下がりはじめ、やがて雨になった。入り口近くの売店でコーヒーを頼み、すすりながら雨がやむのを待つ。すばらしい時間だった。

帰りのトラムは、乗車前に暇そうな運転手をつかまえ、中央駅まで行きたいと主張して、切符の買い方を習った。行き先コードを入力すると金額が表示されるところまではわかっていたのだが、どうやら近郊区間は別扱いになっているらしい。分からないはずだ。

中央駅に到着。ニクを食いすぎたという反省から、魚フライのタルタルソースがフランスパンにはさんであるやつを買う。フルーツ盛り合わせ2ユーロ分も買って宿に戻った。

ちょっと肌寒い、雨が降る薄暗い夕暮れ。
ああこれだ。やっと僕が想像していたドイツになった。

明日で世界一周も終わりだ。チェコを往復する間に読もうとしていた沢木耕太郎の深夜特急第4巻は、ついに読み終えることができなかった。

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