day10. ビールの国

ニューヨークからドイツは7時間半かかる。ロサンゼルスからニューヨークは5時間半なので、それよりちょっと距離がある。うとうとするが、やはりファーストクラスでは寝ることができない。
そういえばエコノミークラスの乗客の時は、完全に荷物扱いだったので、見張られているという感じは全くなかったし、すぐ前が座席なので、ある意味個室の壁のようだった。寝るといっても、座っている状態で固定されているので、寝相が悪いなんてことは皆無だ。
ところが、ファーストクラスは人間として扱われている。1人あたりの空間も広い。フルフラット状態で本当に寝てしまうと、とんでもない醜態をはっきりさらしてしまう可能性があるのだ。
そういう「見られている」緊張感のようなものが常にあって、おちおち寝ていられない。あるいは僕が雑念まみれだから寝ることができないだけなのだろうか。

うとうとしていると、ミスターshおはようございます、朝食の時間です、と起こされた。しかしファーストクラス全体に朝が来るのは、降下がはじまった頃だ。ぎりぎりまで暗くしておき、快適な眠りを提供するのがファーストクラスなのだ。
エコノミーなら、問答無用で起こされ、朝食が配られても着陸までしばらくあるだろう。

朝が来て、20分くらいで着陸。降下中にチーフパーサーから丁寧なあいさつが1人1人にある。プラハが素晴らしい街なのでぜひどうぞ、もちろんドイツもいいですよ。よい旅を、と言われた。ルフトハンザはいいなーと思った。これは決められたサービスというより、客室乗務員の気持ちや考え方の問題だ。この航空会社は、きっとエコノミーでも満足度が高いに違いない。

05:40到着。夜がなくて、また朝かよという感じだ。早朝なので、入国審査官はわずかに2人。パスポートを見て、だまってスタンプ。5秒くらいだ。やはりアメリカは異常と言わざるを得ない。

日本を出るときにドイツの気温を調べたら13度とか書いてあったので、セーターを着て降り立ったのに、実際は熱帯夜明けのような暑さ。意味がわからないままTシャツに着替える。それでも途中で寒くなったときのために上着を持っていくことにした。
海老入りEcoSphereをトランクケースに慎重に入れて、空港のストレージサービスへ。トランクケースの中では心配だが、ライン川に海老は連れて行けない。

手持ちのドルをユーロに両替し、鉄道のサービスカウンターでジャーマンレールパスを購入。セカンドクラスでファイブデイズよろしく、というだけだ。いろいろ注意事項を話してくれるが、やはり聞き取りやすい、わかりやすい英語だ。
ジャーマンレールパスに、今日の日付27/05をボールペンで書き込んで、近距離線ホームへ。しかし空港内と違って、そこはもう容赦ないドイツ語だらけの世界だった。

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慣れが必要な発車時刻表

駅に改札はない。代わりに、車内改札が頻繁に行われる。そのとき切符を持っていないと凄い罰金を取られるらしい。列車は静かにやってきて、静かに出て行く。1等車と2等車は、それぞれ車体に大きく数字が書いてあってわかりやすい。
07:20 Frankfurt Flughafen駅出発。2階建て車両の1階に座る。ローカル線の準急のはずなのに、ものすごく静かな加速、減速をする。しかもカーブが少ないのか、1本のレールが長いのか、ガタンゴトンという例の音があまりしない。ドイツの鉄道技術も相当なものと感じた。

長い1日のはじまりだ。朝になって、気温は思ったより高め。ニューヨークが寒すぎた。緑が多いし、レール沿いには花が植えてあったりする。間違いなくアメリカではないどこかに来たことを感じた。

コブレンツ到着。ここからライン川下りを6時間ほど楽しんでから宿に向かう計画だ。川に向かって歩くと船着場があった。窓口の人に聞くと、レールパスを持っているので、切符はいらないとのこと。桟橋から船に乗る。
船は、お台場や葛西でも見かけるような2階だての遊覧船。決定的に違うのは、1階にビールグラスがずらり並んだコーナーがあるということ。乗客が朝からめちゃくちゃ飲んで凄いことになるのでは、と思っていたら、意外にみんな水とかコーヒーとか注文していた。がっかりだ。

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古城が普通に存在している

3時間くらいおとなしくしていたが、昼になったのでビールとソーセージとフレンチフライを注文。ソーセージはわりと普通だったが、じゃがいもが異常にうまい。
端数をチップとして渡す感じでいいらしいのでそうしてみた。遊覧船の中にアジア人は僕一人だった。それがビールをぐびぐびやっていたのでとても浮いていたと思う。

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ドイツビール+ソーセージ+フレンチフライ

小学校の時に音楽で習った「ローレライ」を通過するが、特に感動することもなかった。ビールがうまかったのだ。しかも夏の日に徹夜明けでビールを飲んでいるようで、めちゃくちゃ眠くなった。

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斜面に畑がある。美しい

目的地ビンゲンに到着。ここに鉄道の駅があると思って降りたのだが、hbf(中央駅)ではなく、小さな駅だった。ホームでかなり待って、各駅停車でマインツに向かう。マインツからフランクフルト空港行きに乗る。果たして海老は無事か。
海老とトランクケースを受け取り、フランクフルトからICEに乗る。ICEは、新幹線みたいな列車だが、レールパスがあれば追加料金なしで乗れる。席の上のデジタル表示を見て、予約が入っていれば指定席、表示がないか、表示があっても乗客が見当たらなければ自由席という扱いだ。

金曜日(日本時間では土曜日)ということもあって、車内は混雑していたが、持ち前の観察力を使って素早く席を確保した。また眠くなるが、ガムと水で凌ぐ。
ニュルンベルグhbfに到着。ここから各駅停車で2駅くらいのところに宿があるのだが、どこ方面の電車に乗ればよいかがまるでわからない。一旦ホームを離れ路線図を見て行き先を確認するが、そもそも読めないし、眠すぎて短時間の記憶ができないので苦労した。国際線で移動したその日に激しい移動のスケジュールを入れてはならないと思った。

S2かR5の線に乗れば行けると分かり、S2R5、S2R5と、念仏のようにとなえつつホームへ。すぐに来たR5の列車に乗ってみた。しかしそれは期待していた各駅停車ではなくて、止まらない準急列車だった。かなりの距離を行き過ぎてから列車を降り、各駅停車S2で引き返す。
長旅の末にようやく宿に着いたのが18時だった。顔を洗って、少し休んで19時。外はまだ昼のように明るい。

近くの湖のほとりを散歩し、眺めがよさそうなレストランに入る。メニューを見てもドイツ語なので全くわからないし、お互いが片言の英語という悲惨な状況。
僕は欲しい。スパゲッティボロネーゼと、サラダと、ビール。ジェスチャーを交えて必死に訴えると、分かった、という顔をして奥に行った。
すると注文どおりのものが出てきた。感動的だ。しかしやはりスパゲッティはゆですぎだった。ボロネーゼは、イギリスの時同様、煮込みうどんのようになっていた。それでもいい。望んだものが出てきたのだから。
それにしても、小さい子までドイツ語をしゃべっているのでびびる。その国の子供がその国の言葉をしゃべっているのは、当たり前のことなのに。

宿に戻り、海老を調べたら全部生きていた。ニューヨークのX線検査官は「この海老はドイツに着く前に死んじゃうと思うよ」と言っていたから、なおさら感動的だ。

どうやらドイツはここ何日か異常気象で暑いらしく、Tシャツが必要となったので、眠くてたまらない中、洗濯して干してから寝た。寝たと書いたが、本当は洗濯をはじめた頃から記憶がない。

コメント(2)

はじめまして。
ファーストクラスとは羨ましい限りです。
何も知らない私は初めてビジネスに乗ったときに
あまりの心地よさにグーグー寝てしまい、
相方にひどい顔だったと言われたことがあります。
昨年の夏にライン川下りをしましたがローレライについて
予備知識がなく、がっかりせずにすみました。

美しい金髪の乙女の歌声が、舵取りを誤らせたというローレライ。もっと、凄い勢いで水が流れていて、岩肌がすぐそこに迫っていて、めちゃくちゃな急カーブでという勝手なイメージを抱いていました。
実際も、狭くて急カーブで、川底には岩礁が横たわっているらしいのですが、僕が酔っていただけかもしれません。

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